穏やかな若狭湾を臨む福井県小浜市。周囲を山々に囲まれ、湧水や伏流水など栄養分豊富な水が絶えず海に流れ込みます。古代から豊かな漁場として知られ、塩や海産物などを都に運ぶ「御食国(みけつくに)」として、都(奈良・京都)の食文化（≒和食）の確立を支える役割を担ってきました。

また、日本海側唯一のリアス式海岸を持つ若狭湾沿岸には、対馬海流や季節風の影響を受けた唐人や南蛮人など、ユーラシア大陸からの使者来航の記録が残っています。古代の日本にとって、若狭の海が外にひらけた玄関口だったことは、市内に現存する国宝や文化財・寺社仏閣群から感じることができます。
若狭の海は、自然の恵み、文化の恵み、どちらをももたらす豊かな海だったのです。

小浜市の伝統工芸品である若狭塗も、若狭の海が生んだもの。
今から約400年前に、”若狭湾の海底の煌めき”を図案し始まったと言われています。伝統技法 ”研ぎ出し”によって表現される「起こし模様」には、貝殻や松葉など海岸沿いで入手できる天然素材がふんだんに使用され、若狭の海の豊かさと美しさを後世に伝えています。

小浜の人々にとって、恵豊かな存在であった若狭湾。しかし、ここ半世紀ほどは漂着物にも変化が見られるようになりました。国際問題にもなっている「海洋プラスチックゴミ」 です。
海流やリアス式海岸など、地理的特徴が国内外からの海洋プラスチックゴミを運び滞留させ、若狭湾に漂着させているのです。海洋プラスチックゴミの多くはペットボトルやプラスチック容器、漁具など。

海の生物がこれらのゴミを食べ、死に至るケースも報告されています。また、発泡スチロールなどが小さくなってできるマイクロプラスチックの問題も深刻です。小さな魚がそれらのゴミを食べ、その小さな魚を大きな魚が食べる。最後に人間がそれらの魚を食べるという負の連鎖を引き起こします。
若狭湾に流れ着く海洋プラスチックゴミは、海外由来のものだけではありません。国内で私たちが出したゴミが、川を伝って海に流れ着くケースも見られます。

oceanは若狭高等学校・海洋科学科の生徒たちの発案のもと、今の若狭湾の現状を知ってほしいという思いから生まれました。

若狭湾沿岸の砂浜で生徒自ら収集したプラスチックゴミを小さく粉砕。

FUSIONの箸でお世話になっている箸職人・谷口さんのご協力を得て、若狭塗の伝統技法を用い意匠として箸に加工しました。伝統的な若狭塗の製作で用いられる海の天然資源・貝殻と一緒にプラスチックのカケラも取り入れた本商品は、"今の若狭湾"を表した現代の若狭塗と言えるかもしれません。

箸の色は全部で4色。
あたたかくやわらかな空気をまとった「春」（ピンク）、太陽が照り色鮮やかな「夏」（オレンジ）、暑さがゆるみ冬の気配を感じる「秋」（イエロー）、きりりと冷たく清らかな空気の「冬」（ブルー）。どの色も、昔と変わらず私たちの心を癒してくれる若狭湾の姿を表現しています。
（箸先滑り止め有、食洗機対応）

美しく、恵み豊かな若狭湾。
だけど、それだけではなくなってしまった”今の若狭湾” 。
この箸が「プラスチックを使うこと」「捨てること」について考える新たなきっかけにな れば嬉しいです。

※本商品の収益の一部は、県立若狭高等学校海洋科学科の海洋プラスチック問題に関する調査・取り組みに充てられます。

＜参考文献＞
1.「1 からわかる！プラスチックごみ問題(１)」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji17/
2.「若狭湾の海ゴミ」,小浜市うみのゆりかごを育む会・内外海地区活性化 プロジェクト推進協議会
3.「小浜市史　通史編　上巻」,小浜市役所（1992）
4.「渤海使の航路と気候変動」,卯田強